パン職人の修造 第6部 再び世界大会へ 後編
パンの世界大会当日
「江川、緑! 今日は頑張ろう! 今までやって来たことを無駄にしないで悔いのない様挑むんだ!」
江川は、昨日ミヒャエルに何を言われたのかわからないけど修造さんが怒った所を久しぶりに見た。僕が一矢報いる様冷静に動かなきゃと思っていた。
「修造さん、頑張りますね! 今日は緑ちゃんを上手くリードします」
そう言いながら緊張で手が震えそうになるのを笑って紛らわせた。
各国の旗を持ち選手が次々に並び開会式が行われた。
隣のミヒャエルが「修造、よく眠れたか?」と嫌味っぽく言ってきた。
「ああ、よく眠れたよ。余裕たっぷりだからな!」
日本のチームも開始の音と共にブースに入った。
キッチンの配置は江川が作った試作室と同じで慣れた環境で動く事ができた。
練習通りに生地作りを始め素早く仕上げていった。
ヴィエノワズリー、タルティーヌ、カンパーニュなど様々なパンが素早く出来上がっていく。
種類ごとに同じ形で同じ大きさのものが綺麗に並べられて行った。
「いいぞ、予定時間通りに無理なく進行している」
出来たパンは次々にカットされ、ピールにのせられ並んで座っている審査員が試食して点数をつけていく。
修造とミヒャエルはお互いの作品をチェックして、正直僅差だと感じていた。
俺がエーベルトを独り占めしてると感じていたんだな。あの素晴らしいベッカライ、エーベルトベッカーがもう亡くなったなんて信じられない。
エーベルトを恨まないでくれミヒャエル。。。
修造は江川の次の作業がスムーズにいくように声を掛けていった。
江川と緑は土台の燃える花をモチーフにしたカンパーニュの上に薪を組み、その上に焦げ茶色の太鼓を取り付け、手に五穀豊穣祈願の棒を持った男を立たせた。
一番難しかったのは薄い炎の形の生地を外れず割らずに取り付ける所で、内側は固定してかなければならない。固定してるのに動きをつけるのは容易では無い事だが、そこは日本でも何度も練習した。
炎の形をいくつも作り、下から上へと色を変えながら取り付けていき、それは彩りも美しく、荘厳で炎が風に煽られて燃え上がる感じが上手く表現できていた。まるで火の粉が見えるようだった。
江川の勢いのある正確さと緑の素早い動きは絶妙なコンビとして人々の目に映った。
2人はパンを次々完成させて並べ、飾りパンを手前の台に置いた。片付けを済ませて終了の赤いカーテンを引いた。
並べられた作品を見比べてミヒャエルが「見てみろ我がドイツ国の美しい芸術作品を」と言ってきた。
「おいミヒャエル。お前の目は節穴か? 見てみろこの炎の芸術を」
手をかざすと作品の赤が手に映え、まるで炎が映ってるようだった。
選手たちは集まって集計を待った。
「お母さん、お父さんと私、頑張ったよ」
緑は祈った。
江川と緑は3位以内に入り、応援と拍手に迎えられ3か国が並んで知らせを待った。
日本、ドイツ、イタリアの3か国の選手が緊張の一瞬を迎えた。
その時世界大会の会長がマイクで告げた。
「JAPAN!」
江川は世界1位になった。
「ぅおおおおおお―――――っ! やったーーーっ!」
江川が柄になく大声を出した。
江川はペストリー部門、サンドイッチ部門、芸術作品部門の3冠に輝き、緑はベストアシスタント賞に選ばれた。
2位のドイツとは僅差での危ない優勝だった。
修造は感動して泣いている西畑の肩を叩いて、
「西畑ありがとう。緑を頼むよ」と言った。
「修造さん。僕途中で気が付きました。緑さんに実力で負けないように僕を育てて下さってたんですね」
「それはな、西畑。お前が頑張ったからだろう。頑張らなければ無かった事なんだ」
去り際に西畑の方を振りむき薄く笑いながら「急にドイツに一人で行くとか言ったら俺がボコボコにするからな」と言った。
「わわ、気を付けます!」
修造はミヒャエルを探し声を掛けた。
「お前は俺の事をどう思ってるか知らないが、エーベルトは俺の恩師なんだ。お前のお父さんには抱えられない程のものを貰ったよ、だからお前にも礼を言わせてくれ。ありがとうな、ミヒャエル。また会おう」
修造はミヒャエルの手を握り、ミヒャエルは少しだけ頷いて、
「修造、昨日は大会前でお前にかましたのさ。本当は都心部の近くの店舗での薪窯が段々規制が厳しくなって来たんだ。親父は改装を嫌がってたけど、親父も亡くなったから思い切ってイメージを一新したんだ。何も連絡しなくて悪かったな」
ミヒャエルは修造の手を握り返して去って行った。
7 美しい花嫁
帰国後、江川はますます人気シェフになりLeben und Brotは沢山のお客さんの大行列ができた。
江川と緑は取材の嵐で忙しかったので、修造は西畑や他の職人達と大量のパンを作った。
様々な人がSNSで店の事を知らせ、それを見た人達がまた押し寄せた。
修造は西畑と持って帰って来た炎の祭りの飾りパンをもう1度組み立てて店に飾った。
するとその写真を撮る為にまた人が押し寄せた。
これは当分忙しくなるな。
修造はテクニカルアドバイザーとして数件の企業に声を掛けられ条件のいい高額の提示をされていたが、どこにもまだ忙しいからと断っていた。何処にも、何にも修造の心を動かすものがなかった。
金曜日、修造は麻弥の店に来ていた。
「修造、優勝おめでとう、私も嬉しいわ」
麻弥は豪華な花束を用意していた。
「ありがとう麻弥」
世界大会が終わった、でも、もう帰る場所が無くなってしまったな。江川の店も忙しいし、大地の練習も見なくちゃならないから、しばらくこのままで、その後は、、
麻弥は修造の背中を見て思った。
「あなたは私がどんなに愛情を見せても寂しそうだわ」
「私の心はいつまでも届かないのね」
麻弥はいつも修造に負担をかけない様に努めて明るく振る舞った。
例え、いくら忙しくても修造の前でだけは余裕のあるフリをして。
そんな麻弥の心も限界が来ていた。
同じ頃、緑と西畑が大地のところに挨拶に来ていた。
「大地、西畑さんよ。私たち結婚するの」
「西畑さん、お姉ちゃんはファザコンですが、よろしくお願いします。姉ちゃんも結婚したらあんまりお父さんお父さん言わない方が良いよ」
西畑は苦笑いした。
「大丈夫です。僕はそこもひっくるめて緑さんと結婚させて貰います」
「もうなによ〜! 2人とも!」
「あのさ、ママさんって、、、麻弥さんって知ってる?」
「知ってるわ。お父さんにベッタリの人でしょう」
「あの人も式に呼ぶ?」
「お父さんとお母さんが仲良かった所がまだ記憶に新しいのに? 私達が彼女を呼ぶの?」
「呼んであげたら? このままでは良くないよ。新しいことに気持ちを切り替えさせないと。それにママさんはそんなに悪い人じゃないよ。ただ親父が好きなだけなんだと思うよ」
「なによママさんって! 少し気が早くない?」
「そういうあだ名の人なんだよ」
「お母さんのお仏壇の前でこんな話、、」
「ママさんはいつも綺麗に掃除してくれてるよ」
大地は律子の仏壇を見ながら言った。まるで公認だとでも言わんばかりに。
大地は普段なにも話さないのにこんな事を考えてたんだと緑は思った。
お父さんにとって過去は戻りたいけど戻れないとても辛い所なんだわ。
「わかった。麻弥さんも呼ぶわ」
待ちきれなかった西畑は緑と挨拶に来た。
「修造さん、改めてご挨拶に来ました。僕と緑さんはLeben und Brotで結婚式を挙げます。これ、麻弥さんの招待状もあります」
「お父さん、私たち2人でパン屋さんを開くのが夢なの。Leben und Brotみたいにお客さんがパンを楽しんで選んで笑顔で食べてる、そんなパン屋さん。」
「楽しみにしてるよ」
「麻弥さんも式に来てくださいね」
「素敵ね。2人でウェディングケーキを作らない?」
「そうだね」
式の当日、修造と麻弥は4段のケーキにマジパンの花と、バゲットを持った新郎新婦を飾った。
「良いのができたわね。」
「そうだね。」
結婚式は花が咲き乱れたLeben und Brotの庭で行われた。
律子の若い時にそっくりになったドレス姿の緑はとても美しかった。
「綺麗だな。」
自分の若い時を思い出し、あの時式をあげて律子にドレスを着せてあげたら良かったと修造は後悔した。
大会の後、自分を責める寄せては返す波の感覚が随分空いて来ていたが、まだこんな時は辛さが勝つ。
遠くを見つめる修造に気が付いたが、」披露宴の間麻弥は修造の腕を組んで明るく振る舞った。
「2人で上手くやっていくんだよ。幸せにな」
「修造さん、お、お父さん。僕、緑さんを幸せにします。次はお二人の番ですね!」
腕を組む修造と麻弥を見てそう言ったが、修造は返事をしなかった。
4 告白
雨が降っていたある日、修造は麻弥の店に呼び出された。
お店は定休日で、電気の消えた店に麻弥は一人で座っていた。
「私、、もう疲れたわ。私はきっと亡くなった奥さんに勝てない。あなたが私を愛する日は来ないのよ」
緑と西畑の姿を自分に重ね合わせて見ていた事を、麻弥に見透かされていた。
その時初めて修造は麻弥の顔を真っ直ぐ見つめた。
「なぜあなたは私の言いなり人形の様に振る舞うの? 私の事を馬鹿にしてるの?」
涙をいっぱい溜めている麻弥。
瞳から溢れ出る涙を見て初めて麻弥の事がわかった気がした。
「麻弥、心から謝るよ。こんなに無理させて、、俺は麻弥のことを誤解してたんだ」
「麻弥聞いて欲しい事があるんだ」
「俺はまだ心の中に穴があいたまま生きてるんだ」
修造は初めて律子が亡くなった夜の話をした。
その時抜け殻の様になってしまった事も。
寄せては返す後悔が自分を責め続けている事も。
麻弥は修造の隣に座って手を握り、泣いていた。
今日修造は初めて本心を明かした。
「もっと早くこの事を打ち上げれば良かったね」
「麻弥」
「俺は山の上であのソファに座りながら自分が死ぬのを待っていたんだよ。自分から死のうとしたわけじゃない、そうじゃないんだ。ただいつか自分が終わるのならその時をじっと待っていようと思ったんだ。俺は頑丈だったよ。。でも流石にもう少しで自分は終わる、、そう思っていたら、麻弥が俺を訪ねて来たんだ」
「そして何かが不思議な力で俺を立ち上がらせたんだ」
「麻弥が帰った後、俺は何日か座ったまま過ごしていた。そしたら凄い風が吹いて来てその時聞こえたんだ。確かに。怒った声で『立って!』っていう声が。我慢してたけどとうとう切れたって声だった」
「俺はその後何日か待ってた。もう一度声が聞こえるかもと思って探したよ。でも何も起こらなかった。今となっては空耳だったのかどうか」
「律子が子供達を叱る時あんな言い方だった。だからいつまでもじっとしてる俺をとうとうあの世から叱りつけたのかもしれないな。そう思ってこっちに来たんだ」
「その後、麻弥のシュニッテンが俺を救ってくれた。俺の次の生き方があの時から始まったんだ」
「俺は若い奴らに色んな事を教えなくちゃいけない。そういう事だったんだよ」
前を向いて行け。そう言いたかったのか。。
「麻弥」
修造は麻弥と向き合って言った。
「フラついていた俺のせいなんだ。俺達は間違った付き合い方をしてたんだよ」
「君をずっと傷つけていて悪かった。親友であり、懐かしい同僚であり、同じ体験をした仲間なんだ。大切な人なんだ。麻弥を失いたくないんだよ」
「もう明るい振りしなくていいんだよ。泣きたい時は泣いたり、疲れた時は疲れたと言ってくれ。本当の自分を見せながら一緒に生きていってくれないか」
5 懐かしいドイツへ
麻弥はそれ以降顔を見せなくなった。仕事場にも来ないし家にもおらず忙しい様だった。
店の窓から外を見ながら麻弥の事ばかり考えている事に気づいた。
麻弥は心の真ん中で真っ赤に燃えていた。
「バカだなあ俺は」
振りむいて仕事中の佐山に「俺は今、ちゃんとしてあげて下さいの意味がわかったよ」と言った。
「今ですか? 全く呆れますね」
佐山は本当に呆れた顔をして修造を見た。
「あなたは一本気過ぎるんですよ。一つの事が終わらないと次のことがわからない不器用な人ですね」
「馬鹿々々しい」
佐山はスケジュール帳を開いて指さした。
「麻弥さんが確実につかまる日がありますよ。ほら」
そしてスマホを素早く検索して「丁度隣が空いてるから取っといてあげましょうか?」
「今から準備したらどうです?」
走って去っていった修造に「鈍感な人だ。僕はただボスに幸せになって欲しいだけ、それって何故かあのおっさんにはわからない」
修造は佐山に教わった時間に飛行場に来た。
「麻弥」
ドイツ行きのゲート前で修造は声をかけた。
「どうしたの? 私は仕入れに行くだけよ? 何かあったの?」
「俺も仕入れに付き合うよ。ノアに会いたいんだ。さっきメールして約束したよ」
麻弥は不思議な気持ちだった。
修造、雰囲気が変わったわ。表情がスッキリしてる。そういう私も前と違う。あれから修造を信頼してる。今までは何処かに行ってしまったらどうしようって不安だったけど、その不安はなぜか消え去ってしまったわ。
麻弥と仕入れを済ませ、懐かしいヘフリンガーに出かけた。
お世話になったマイスターは髪が真っ白になっていたがまだまだ元気そうだった。
久しぶりだなあこの雰囲気。
なんて素晴らしい場所だったんだ。
ここでパン職人の自分は生まれた、そんな気持ちになった。
そして麻弥ともここで出会ったんだ。
その時修造は思い出した。
あの角から、あの店の中からいつも麻弥が修造に向かって手を振っている所を。
あの時から麻弥は俺の事を。こんなに長い間想ってくれていたのか。
「忍者! 久しぶりだなあ!」
「久しぶりだねノア。忍者なんて、、もう、あの時みたいに機敏に動けないよ。おじさんになっちゃったからね」
「お前のことはずっとSNSで見てたよ。お前らが付き合ってるって知らなかったけどね」
パンとビールで話はいつまでも弾んだ。
楽し過ぎる時間だった。
修造は久しぶりに笑った。
そして帰り際にノアから紙袋を受け取った。
「親友のノア! ノアに頼んで良かったよ」
「うまくやれよ」ノアは笑って修造の背中をポンポンと叩いた。
6 Lass uns heiraten
「やっぱり寒いわね、この時期は。」
麻弥はオレンジ色のコートに白い帽子を被っていた。
修造と麻弥はやっと心が通じた感覚を2人で感じ取っていた。
心の道が出来た、そんな感覚だった。
修造は麻弥のふとした表情に胸打たれる瞬間が増えた。
「俺は今から行きたいところがあるんだ。一緒に行ってくれる?」
「どこなの? それ」
それはクリスマスマーケットだった。
巨大な施設に屋台が沢山並んでいる。
各店々に沢山のクリスマスの飾りや置物、食べ物などが売っていて目移りする。
ホットワインと焼きソーセージを食べてゆっくり回った。
石畳みはヒールで歩きにくく、つまづきそうになった時、修造が麻弥の腰に手を当て支えた。
「ドイツ式の石畳は結構歩きにくいんだよ」
人混みの中を歩きながら麻弥は気づいた。
修造は私が誰かにぶつからない様にさりげなく避けてるんだわ。
ひょっとして私を守ってくれてるの?
「あれ見て、移動式の観覧車よ。こんな大きいものどうやって運ぶのかしら。凄い迫力ね」
「いいね、乗ろうよ」
キラキラと色を変えて輝きながらゆっくりと回る観覧車からはマーケットや川のイルミネーションが延々と続いてるのが見えた。
町中がクリスマス色に輝いている。
「綺麗ね」
外を向いている麻弥をこちらに向かせてノアが作ってくれたレープクーヘンを首にかけた。
Willst du mich heiraten? (結婚してくれないか?)
意外過ぎて麻弥は涙が止まらなくなった。
麻弥の頬の涙を指で拭いながら「麻弥、俺は熱くなる性分なんだ。これから麻弥の姿が見えないと追いかけ回すかもしれないぞ。それでも良いなら俺と結婚してくれ。」
「ふふ、怖いわね。今まで私が修造を追いかけ回してたのに、、」
麻弥は2人の冷たい手を摩り合わせて暖めた。
「ねえ、私は温かいでしょう?」
「うん」
「私は修造より長生きするわ。まだまだバリバリやらなきゃいけない事があるの」
「ねぇ、修造、私はこの半月程物件を探してたのよ。あなたと私の新しい店を」
「あなたがドイツのパンを作って私がドイツのお菓子を作るの」
「どう?」
「それはもうやってる事だろう? 君はまだお店を増やす気なの?」
「ええ、ドイツのパンとお菓子のお店よ。修造と麻弥のお店」
修造は驚いた。
麻弥の小さな身体からいったいどうやってこんなバイタリティが生まれてくるのか。
これから自分は麻弥を手伝って生きていくかもしれないと思ってはいたけど。
「これから一緒にどこにお店を開いたらなるべく沢山の人達が来てくれるか調べましょう。そしてみんなが知りたがっていて、みんなが食べたがっているパンとお菓子を考えましょう」
「俺たちはドイツのパンや文化に対して敬意を払っている立場で、一過性の流行りを作って売り出せって言うのかい? 流行りが終わったらそれは古いイメージになってしまう。それは俺のやるべき事じゃないだろう」
「あら、違うわよ。ドイツには何千種類のパンがあるのにほんの少ししか紹介できてないわ。その沢山ある中から知って欲しいパンやお菓子を選んでみんなに食べて欲しいのよ」
「ドイツのパンの中から」
「明日ノアの所に戻って色々話を聞いてみるか。他にも店を廻ってみよう」
「ミヒャエルの店にも行こうか。挨拶もしたいし。緑と西畑がワーホリを使ってフランクと交換留学をするらしいんだ。世界大会の時に約束したんだってさ」
「その店は凄い人気よ。行列ができてるらしいわ」
「好都合だよ。店内の様子をじっくり見よう。みんな何を選んでるかもわかるし」
ドイツのパンとお菓子か、、本当に奥が深い。案外麻弥の言ってることは難しいぞ。
ドイツから店一軒移すぐらいの気持ちでないと、、
それに今の麻弥の2軒の店と百貨店の売り場の商品は今は1号店で作ってるが手狭だし、いっそセントラルキッチンを作って俺が管理して、1号店と2号店は佐山に回させて麻耶は経営って感じになるだろう。
麻耶が一等地に店を出すんなら家賃が高いだろうから、セントラルキッチンは結局家賃の比較的安い1号店の近くに作らないと。。
あっという間に修造の頭の中はそれでいっぱいになってきた。
「帰ったら物件を見に行きましょ、良いところがあるの」
「麻弥、これから大変だぞ」
「あら、平気よ修造がいるんだもの」
そう言って2人はドイツの夜の街に消えていった。
つづく
パンと出会い、人を愛し熱く生きた修造の人生。読んで頂いてありがとうございました。修造はサクセスストーリーに興味はなかったと思いますが、読んでくださった方の中に、一人でも多くパン屋さんになりたい、修造の活躍に憧れるなどの職人さんが増えたら良いと思います。誰かに言われてやる仕事は辛いかもしれません。でも自分でやる仕事は楽しいものです。今回この話には自分の知っているパンに纏わるあらゆる事を盛り込みました。パン屋さんにも色々な店があり、製法も様々です。沢山の考え方があると思います。例え始まりが修造の様にやる気なく始まったとしても、興味が湧き、追求していける様になればいいと思います。
※尚、このお話はフィクションであり、実在する人物、団体とはなんら関係ありません。