パン職人の修造 江川と修造シリーズ some future
「修造パンロンドのみんなはどう?」
早番で早く帰ってきた修造に妻の律子が話しかけた。
「花嶋由梨って新入社員が入って来たんだ。
「そうなの」
「今みんなで仕事を教えてるよ。今日は江川と一緒に生地の手ゴネをしてた」
「どんな人?」
「えーと藤岡の紹介で入ってきたんだよ。
と言いながら修造は、6ヶ月児の大地とうつ伏せになって向かい合っ
「大地これどうぞ〜」と言ってオモチャを渡そうとする。
「ほら、
そのあと、
「大地可愛い可愛い〜」
「律子ホラ見て!歯が生えてきたよ」
律子も「大地歯が生えてきたね」
本当は律子は知っていたが、
「ふふふ。可愛い」
「ただいま〜」
「あ!おかえり緑」
夕方は学校から帰ってきた長女の緑と3人で東南スーパーに買い物に行く
「今日空手道場の日だね、
「一緒に行きたいね」
「うん」
緑は修造と繋いだ手をゆらゆら揺らしながら「ねえ、
「勿論だよ。超仲良し」
夕焼けの光に照らされて子供達の成長とこれからの未来に想いを馳
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次の日
修造は藤岡とハート型の※レープクーヘンを作っていた。
オブラートに生地を乗せて焼くとスパイスの香りが辺りに立ち込める。
チョコを塗りながら「乾いたらこれにアイシングしてみよう。
「楽しみです」
「藤岡は吸収率が高いから教えがいがあるよ」
「ありがとうございます。もっと色々教えて下さいね」
「うん」
とそこへ、律子が大地と緑を連れて来た。
律子の実家から野菜が送られて来たから奥さんに持って来たのだ。
「修ちゃん、律子さん達が来たわよ〜」
「あ!律子!」
修造は作業中の顔つきとはガラリと変わって嬉しそうに飛んで行っ
「凄いハッピーファミリーなんですね」
それを見た由梨が驚いて風花に言った。
「そうなのよ。普段強面なのに律子さんの前に行くとニコニコね」
由梨が見ていると奥さんが手招きしたのでそちらに行く
「
「初めまして花嶋由梨です」
「律子です。お仕事頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
3人が帰るのを見送った後由梨は結婚という言葉についてイメージしてみた。
自分もいつか結婚したり子供ができたりするのかしら。
ちょっとだけ藤岡を見てみた。
そしてこの間聞いた前の職場の先輩の事を思い出した。
「あ」
そうだった。全然遠い道のりだったんだった。
すぐそこにいるのに遠い。
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次の日
由梨は仕事が休みの日なので東南駅の横の巨大ショッピングモールで服屋巡りをしているとペビ
「こんにちは。お買い物ですか」
「あ、由梨ちゃん。こんにちは、そうなの。パンロンドはどう?
「はい、本当に。皆さんに優しくして頂いています」
「私も以前パンロンドで働いてたのよ。5年間工場にいたの」
「そうなんですね、、あの」
「なあに?」
「修造さんとはどうやって知り合ったんですか?」
「私は始めは販売員として働いていたのよ」
「えっそうなんですか?」
「そう初日にね、工場の奥のミキサーの所に修造がいてね、
律子は当時の事を思い出して話しだした。
それはこんな風だった。
働き始めた初日。
奥さんが案内してくれて、奥からお店に向かって歩いて行って順番に挨拶していったの。工場の奥のミキサーの所に修造がいてね、
その時初めて目があって私を見て修造が思った事が私にはわかった
ドキッとして顔が真っ赤になったから私もドキッとしちゃった。
その後ね、何度も何度も目が合うのに全然話しかけてこなくてね。
もう多分話すことはないんだわって思ってた。
そんな時に事件が起こったわ。
突然ナイフを持った痩せた男が入って来て、奥に入って行こうとして私を突き飛ばした。後で聞いたんだけど、その人はお店とトラブルになった人らしくてね、大きい声を出してたし、めちゃくちゃ怖かった。
揉み合ってるうちにナイフを掴んでしまって床が修造の血で一杯になってこっち
その時ね、
それから病院に一緒に行って
毎日手当に行ったのよ。フフフ。
そしてすぐに一緒に住みだしたの。
今も修造の手にはその時の跡が残ってる。
でもね
私は修造が大好きだったのに、、、
結婚して緑が生まれて間もなくして急にドイツに行くって言い出したわ。
「パンの修行の為に」由梨が合いの手を入れた。
「そう!凄く反対したわ。緑も小さかったし。
でも目の奥に覚悟が段々できてきて、絶対行くんだわって悟った。
5年間ずっと修造が帰ってくるのを待ってたの。
仕事が終わったら2人で帰ってまた次の
修造が大好きで会いたくて、
ずっと後悔してるのよ。
追いかけていけば良かった
一緒にドイツで暮らせばよかった。
だからこれからずーっと一緒にいようと思ってるの」
由梨は律子が力を込めて言ったずーっとに何か意味があるのかと思って見ていた。
「はい」
「私達ね、山の上でパン屋さんをするの。
「素敵」
由梨は自分と藤岡の未来をちょっと夢見てみた。
「結婚って良いですね」
「ホント毎日が楽しいわ」
その姿は堂々としていて自信に満ち溢れ輝いてるように見えた。
子供達から必要とされる存在で、
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次の週
修造一家は法事で山の上の実家に帰っていた。
修造の家がある山の上半分は母方の先祖代々のものだ。
今は誰もすんでいないので、結構埃が溜まっている。
掃除しながら「やっぱすんでこその家だ。とはいえ元々ボロ屋だからな」
修造の実家は山の上にある平屋で、玄関の前は平らで広場の様になっている。
母親の法事中、無骨で無口な修造に比べてしっかり者の律子に皆感心した「あんなできた嫁ばよく見つかったもんたいね」と山の中腹に住む母親の妹夫婦が囁き合った。
皆帰った後、家族4人だけになった。
「ねぇ修造。ここにオーブンを置きましょうよ」
「裏に畑を作って野菜を作るわ、修造はそれを使ってパンを作ってね」
「素晴らしいなあ。いい考えだよ律子」
俺の俺だけの工房で俺のパン作りをして、
二人は出会った頃の様に見つめ合った。
ここにいて2人で同じものを見て同じ様に感じて毎日を過ごして2
ここら辺の湧き水は潤沢な硬水よりの水でパン作りに適してる。
山を降りた所にある小麦農家と話して粉を卸して貰おう。
修造の夢はギラギラと膨らみ胸いっぱいになった。
外に出れば目の前は林の続く斜面でその下には広大な景色が広がり
「綺麗だわ」
律子はこの夕焼けを見ていつも感動している。
入り口は南向きだが工房を作る予定の居間は西に向いていて夕方は
初めて律子をここに連れて来た時に、
修造は納屋に伐採用の鉈(なた)を取りに行った、すると便利な折込式のこぎりと充電式の電動ノコが見つかる、母親が使っていたのだろうか?にしては大型で結構新しい。不思議に思いながらそれを持って裏庭から斜面になって続く林に入り、枝を切り落として来た。
不思議な事に長い間ほったらかしていたのに周りの雑草や蔦はそこそこ手
「
「これだけあれば開店当初の分はいけるだろう」
よく乾燥させないと木の芯に水分が残って燃えづらい。
「2年間大人しくしといてくれよ」
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パンロンドに戻った修造は神妙な面持ちで親方の前に立って話しかけた。
「親方!俺、、」
うわ、ついに来たこの時が。
親方は修造の表情を見て悟った。
「修造、俺はお前に感謝しかしてないよ。お別れは寂しいけどお前ならどこででもなんでもやれる。
「ありがとうございます」
「それとさ、あいつきっとついていくんだろ?」親方は由梨と一緒に楽しそうに分割をしている江川を見た。
「親方、その事なんですが。俺と江川は店作りをするつもりです。
「なるほどね。お前は本当にギブアンドテイクの男だよ。
「はい」
「しばらくはまだ準備ができるまではうちにいるんだろ?」
「はい、すみません、勝手ばかりで。よろしくお願いします」
親方との話し合いで休みの日を平日に週2日にして貰った。
家に帰って律子に親方との話を説明して、「あと2年待って欲しい
修造は律子に2度目の土下座をした。
「そんな格好やめてよ修造ったら、わかったわ。
「そんな訳ないよ。山の上に行ったら律子と2人の時を増やす様に
その夜布団の中で修造は色々な計算が止まらなかった。
場所、開店資金、
基嶋機械の営業の後藤さんにも聞いてみようかな。あの人なら何でも知っていそうだし。
あとは立地だな。。駅前の不動産屋さんに相談してみよう。
「どんな場所が良いかなあ」
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次の日
先輩の佐久山と広巻、後輩の杉本が声を掛けてきた。
「修造、とうとう行っちまうんだって?寂しくなるよ。
「俺達は親方と一緒にまだまだ頑張るよ」
「勝手ばかりしてすみませんでした。
「離れてても俺と修造さんとは兄弟っすよ!」
「わかったよ杉本。ありがとうな、がんばって次の技術士の試験も受けてくれよな」
「わっかりました~」
「江川、元気でな」
「はい、
「自分で言うなよ」
アハハと笑うみんなの会話を聞きながら藤岡は近くにいた由梨に言うともなし
「俺は修造さんの去った後もパンロンドを守り続けたい。
「はい」
修造を見ながらそう言った藤岡に
「
「そうなんだ。赤々と燃えている」
由梨は藤岡が例の『前職の先輩』の事もそんな風に思ってたのか気になる。
パン屋さん巡りをしていって、
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由梨の両親は東南商店街で無事着物屋『花装』を新装開店し、今は近所の賃貸マンションで3人で暮らしている。
パンロンドから戻った由梨は自室に籠りパソコンで藤岡の動画を探
確かパン屋への行き道を説明して、
結構色んな人がパン屋さんを巡ってる動画を出してるけどどれなん
パン屋さん巡りの動画は沢山あって見つからない。
そうだ、ウンタービルクを紹介してるのを探せば良いんだわ。
由梨は以前住んでいた町のパン屋ベッカライウンタービルクの動画を探していった。
その店のお知らせも見てみる。
「あ」
お店がホームページに貼り付けていた映像にテロップと曲だけの動画を見つけた。
「これかも」
各駅電車を降りた所からウンタービルク迄の道のりを動画とテロップで説明していて、2人が出会った川が映っている。
映っているパンの中にはあのヘルンヒェンとSchweinsoh
「間違いない。これなんだわ」
動画の名前は『各駅停車 パン屋探し』電車好きとパン好きが見るのか登録者数は多い。
一見普通の名前そうだが、
『各駅停車 パン屋探し』は、他にも沢山の店の動画があった。
駅に着いて、歩いてパン屋さんの工場を覗いて、
そう思うとなんだか切ない。
もし先輩が見つかったらどうするんだろうか。
何か声をかけるのか。
『あ、藤岡君久しぶり、元気にしてた?』
そう言われたら理想的な言葉をかけるのかしら「お久しぶりです。
それとも
「探しました、なんで俺を置いて行ったんですか。
とか
返事は分からない。
会ってみないと分からないんだわ。
だから探してる。
その夜
由梨は夢を見た
始めはとても嫌な夢だった
夢の中の由梨は随分歳をとっていて1人で料理屋に入る。1番奥の
全員が見張っている。そして由梨にひどい言葉をぶつけた。
そこで目が覚めて
藤岡から離れたくないと
強く思う
もし出会えなかったら
私はあの夢の通りの生活を送る事になってたわ。
それとも本当に河に飛び込んでいたかもしれない。
藤岡さん
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由梨と藤岡は二人でベルリーナという揚げ菓子にジャムを詰めていた。
由梨はそれを手早くトレーに並べながら思い切って言ってみた。
「あの、今度私もパン屋さん巡りについて行っても良いですか?」
「え」
「いいけど」
「助手って事かな?」
「あ!はい!そうです助手として」
藤岡は何か考えている様だった。
作業中沈黙が続き
でも最後にはこう言った。
「俺は今度の休みに動画を撮りに行こうと思ってる、由梨の行ってみたいパン屋さんはある?」
「はい、他の動画で美味しそうなパン屋さんがありました。勿論パンロンド程じゃないですけど。それといつか修造さんのお店にも行ってみたいです」
「そりゃいいね。じゃあお店ができたら行ってみよう」
「はい!」
みんながみんな
思いおもいに
少し先の未来を
想像して
また明日が
やってくる
おわり
※レープクーヘン はちみつ、砂糖漬けのフルーツ、スパイス、アーモンドなどのナッツの入ったお菓子。オブラートの上にのせて焼く。丸形、ハート型など大きさも様々。通常ヘクセンハウスもこの生地で作られる。デコレーションを施し紐を付けてクリスマスの飾りに使われる。