パン職人の修造 江川と修造シリーズ surprise gift
朝10時 シャルル・ド・ゴール空港に到着した。
Paris par Train(パリ行き電車)の文字を頼りに歩く。
「あぁ!着いた~!僕フランス初めてです」江川は飛行機が到着してからこの言葉を何度も言っていた。
「だな」
「これがフランスの匂いかあ」
江川は空港の空気を吸ってみた。
「何やってんだよ。そうとは限らないだろ」
江川が驚いて振り向くと鷲羽と園部が2人を迎えに来ていた。
「あっ鷲羽君」
「修造さんお久しぶりです」
「お、鷲羽!久しぶり」
「修造さん、俺達、頑張ってます。
「これから楽しみだなあ」
「はい」
「園部も元気だった?」
相変わらず一言も発しない園部は静かに頷いた。
パリには※SNCFという電車会社だけがあるので、同じチケットで地下鉄、トラム(路面電車)、バスも使える。
荷物をガラガラと押して※RER B線第1ターミナル駅から移動し30分でパリ北駅に到着。
街を散策しなが
「へぇー!綺麗~」
江川達は何もかも珍しくてかっこいいパリの街を見回した。
4人はその後オペラ駅へ移動して鷲羽達の案内で※日本の食材を扱っ
味噌や醤油などお馴染みのものが並んでいる。
「なんでもあるもんだなあ」
「そうでしょう」
修造はいるものをメモして鷲羽に渡して、
その後プラス・ディタリー駅 経由でコルヴィサール駅で降りて目当ての※お洒落
店内はパンとバターの香りで満たされている。
「江川、
バゲットとショーケースの※ポワトゥ=シャラント産のバターを使ったクロワッサンを買った。
袋に顔を突っ込んで香りを嗅いでみる。
スーと吸ってウーンとのけぞる良い香り。
店の前のヴルツ通りを渡り、3本の木の下のペンチに座る。
「うまーい」
「本場の味だなあ」と味わう。
「ここの近くに住みたいぐらいだ」
歩道を歩く人達はみなパリで当たり前に暮らしてるんだ。と思うと羨ましい。
「ねえ、ちょっとぐらい観光しましょうよ~」
「あれとあれは見とくか」
「エッフェル塔!観に行こう」4人はまたパリメトロ6号線で移動してビラケム駅で降りた。
エッフェル塔はすぐだ。
観光客でごった返す中「鉄の貴婦人」と呼ばれる塔を繁々見た。
その後セーヌ川にかかるイエナ橋を渡り、カフエ ド トロカデロでまた休憩
ビールとポテトフライやアイスカプチーノとパン オ ショコラやラズベリーケーキなどをそれぞれ楽しんだ。
テーブルからもエッフエル塔が見える。
「おしゃれ!」と何を見ても大げさに感動する江川を皆微笑ましい目で見ている。
トロカデロ庭園からアベニュークレベールを真っ直ぐ歩いてエトワー
「うわ~フランス~」
「どこに行っても名所だなあ」
凱旋門近くのシャルル・ド・ゴール=エトワール駅からサンザラール駅へ
フランス国鉄(SNCF)
そこからまた移動して4人は7両編成の路面電車でフランシストリュフオー駅に辿り着い
近所にドラッグストアのある3階建てのアパートの、2階の鷲羽と園部が2人で借りている部屋に行き、
「恩にきるよ鷲羽」
「そのかわり俺達が大会に出る時は協力して下さいね」
「勿論だよ」
大会で選ばれるのは1人だが、今までなら「俺」と言ってた鷲羽が「俺達」
鷲羽君ってちょっと変わったな。
「そうだ、鷲羽君、園部君。
「篠山と北山?」
鷲羽はすぐに思い出せない様だった。
「誰だっけ?」
「同期の、ほら」と園部が補足した。
「あー!?」
顔と名前が一致しない鷲羽を笑い、そのまま4人は夜遅くまで学校
深夜、修造はヨガ用のマットを床に敷き眠ろうとしていた。
江川は2人掛けのソファ
「修造さん、
「まだその言葉は早いよ。
「でしたね、明日から頑張ります」
「
「おやすみなさい」
と言葉を交わし、その夜は流石に疲れてぐっすり眠ることができた。
ーーーー
翌日
朝食は園部が当番らしく、バゲットにクリームチーズとラズベリー。そしてアツアツの※キッシュロレーヌをカフエオレと頂く。
「園部君これ最高!」と朝からテンションの高い江川に園部が黙って微笑んだ。
修造と園部が後かたずけをしていた時、窓の外を通る路面電車を見ていた江川に
「あのさ」と鷲羽は恥ずかしそうに話しかけた。
「俺は今までお前のパン作りを見てきたよ。だからお前の底力も分かってる。俺の分も上乗せして修造さんを助けてくれよな。俺はお前を信じてるぞ」
「鷲羽君」
信じてる、、そんな言葉が鷲羽の口から出て来るなんて!
江川の大きな瞳がみるみるうちにウルウルしてきたのを見て鷲羽もちょっとウルっときた。
江川は鷲羽と握手して「ありがとう。そんな風に言ってくれて僕本当に嬉しいよ。今になって、鷲羽君は僕の事ずっと見てきた理解者なんだってわかった」
思いがけない鷲羽の言葉に江川が本気で感動しているのを見て「やめろよ照れ臭い奴だな」と背中を向けたら話を聞いてニコニコして見ている修造と園部と目が合う。
「え、江川に喝を入れてただけですよ!」と言い訳した。
ーーーー
2人は鷲羽から受け取った種を持って
ベルノン駅で降りた。
セーヌ川の見える橋を渡り綺麗で広い会場に入る。
興善フーズの五十嵐良子を探した。
「田所さん、江川さん、お疲れ様です」
「どうも」
「早速おふたりの練習場に行きましょう」
そこには既に送った荷物と興善フーズの手配した材料が置かれてい
「五十嵐さん。助かりました。どうもありがとうございます」
「何か困ったことがあったら相談して下さいね」
「はい」
早速粉を石臼挽きで挽き、
そのあとはパンデコレの部品を作っていく。
本体を焼いた後、ナイフで正確に刻んでいき、
江川は鷲羽のパンデコレの一件を思い出して、もしこれを誰かが倒して壊したらと思うとゾッとした。
これを組み立てるのは大会の終盤なのだ。
「ここから外に絶対出さないようにしよう」
明日はいよいよ前日準備だ。
2人が興善フーズの用意した材料や資材をチェックしていると「ボンジュール!ムッシュ田所、ムッシュ江川」とスーツ姿の男が声を掛けてきた。
「どうも、後藤さん」
「あ、後藤さん。ムッシュだって、ウフフ。もう早くもフランスかぶれですか」と江川がからかった。
「まだそこまではいってませんが、お2人を応援する気持ちが高まってきています」と言って大げさに両手を広げて白い歯を見せ、上着を脱いでエプロンを付けた。
「私もお手伝いしますね」
洗い物を始めた後藤は「それで全部ですか?」と荷物を整理している江川に聞いた。
「明日知り合いが肉や野菜や乾物を持ってきてくれるんだ」と言いながら間に合わなかったらどうするのかなと心配になるが鷲羽と園部を信頼するしかない。
「向こうは僕を信じてくれてるんだから僕だって、、、」
「お友達ですか?」
「うん、僕今まではライバルと思っていたけど今朝凄く頼りになる友達なんだって気が付いたんだ」
「今日の朝、そんな素敵な事があったんですか」後藤はにっこりした。
素敵と言われて今までの経験が全て無駄にならず自分を押し上げる波のようにやってきて、高い所に運んでくれるようなそんな気持ちに気が付く。
「うん、僕勇気を貰ったんだ」
今の気持ちを言葉にするなら『勇気』が一番ピッタリな気がする。
頼りなそうに見えた江川が急に大人びていい顔つきになった。
こりゃやってくれるな。
後藤は大会が楽しみになってきた。
おわり
※RER B線 イル=ド=フランス地域圏急行鉄道網の5つの路線のうちの1つ。
フランス国有鉄道(フランスこくゆうてつどう、フランス語: Société Nationale des Chemins de fer Français, SNCF)
※オペラ駅の付近に日本の食材を扱っ
※※ローラン・デュシェンヌLaurent Duchêne MOF取得の職人さんのお店。2 Rue Wurtz 75013 Paris, France コルヴィサール駅から徒歩8分
※ポワトゥ=シャラント産のバター AOP(欧州レベルでの原産地呼称保護)認証を受けた ポワトゥ=シャラント産のバター。原材料の産地及び伝統製法の厳しい規制をクリアした製品。
※キッシュ・ロレーヌ ロレーヌ地方風キッシュの意。パータプリゼ(パイ生地)に卵、ベーコン、玉ねぎ、チーズなどの具とアパレイユ(液状の生地)を流して焼く。