パン職人の修造 江川と修造シリーズ イーグルフェザー
鷲羽秀明(わしゅうひであき)は東京NN製菓専門学校パンコースを首席で卒業した。
在学中は学科、
教室の中では何もせずとも楽にトップでいるそぶりだったが、
にも関わらず、トップを走り続けていると自分は何かのエリートではないかと思え
だが講師達はパンコンテストに出品させては賞を取ってくる鷲羽に
ブーランジェリーホルツの入社試験に無事合格した。
ある時ホルツのオーナー大木シェフに「
そしてその当日、
おまけに修造に凄く可愛がられていて、
そう思って敵視していたその時、
「
ライバルに勝とうとしているのに、本当の戦いは自分自身と?
毎度大木が出してくる課題に誰よりも良いものを出す。
鷲羽は頭をかかえた。
何度練習して結果を出しても、最後は江川が追い越していく。
そんな折
鷲羽と江川のパン作りはとうとう他人の手によって審査される時が
「次来た時、一次審査のパンを送るから」
大木は皆の顔を見ながらそう言った。
締め切りから逆算して日にちを決めたのだ。
そう聞いた途端、
鷲羽は仕事中も出品する事を心がけて命を込める気持ちだった。
今までこんなにまで打ち込んだ事はない、そのぐらい。
配送の日が来た。
完全に凍るまで工場で仕事を手伝う。パンロンドから来た二人にとってとても勉強になる時間だ。そしてついに梱包をする時間が来た。丁寧に梱包して、大木が手配した配送業者に渡す。
「工芸品の様に大事な物が入ってるんだ。頼むよ」どうやらこの時のために知り合いに頼んだ様だ。大木に馴染みの配送業者は丁寧に頷いて冷凍車に積み込んだ。
「緊張するな」「はい、僕心臓がドキドキします」配送業者がパンを持って行った後の修造と江川の会話だった。
園部は黙ったままだったが、一体どんな事を考えていたのか。
冷凍で配送されたパンは会場に並べられて審査される。
さて、審査が終わり、
まずは選考会には修造が選ばれていた。
それを聞いた時修造は「ふぅー」っと息を吐き、
「北麦パンは凄い特訓をしてるよ」
次に大木は気になる若手コンテストの選手の名前を述べた。
「江川と鷲羽が選ばれたよ。園部、
「はい」
相変わらずポーカーフェイスの園部を見て、
「園部ごめんな、俺、お前の分も頑張るよ」
この言葉がこの場にあってるのかどうか鷲羽には分からなかったが
「俺、この場にいて良かったよ。勉強にもなったし。
「うん」
人に向かって何かしらの優しい言葉をかけたのは生まれて初めてだ
江川が「鷲羽君、入選おめでとう。頑張ろうね」と言ってきた。
澄み切った水辺に輝く宝石の様に瞳がキラキラしている。
自分には全くキラキラした所が無い。
白い鳥の羽の様な、青い空に浮かぶ白い雲の様な、
鷲羽は江川の言葉に対して斜に構え少しだけうなづいた。
大木が帰ろうとする鷲羽と江川を呼び止めた。「
「はい」
帰りの電車で江川は修造に質問した。
「ヘルプってどんな事をすれば良いんですか?」
「そうだな。ベークウェルって五店舗ある町のパン屋さんなんだけど、
「へぇ〜僕初めてです。どんなのかなあ。。それに、、
江川は不安そうに少し涙目で言った。
「それは、、頑張ってね」
さて、江川は空いてる日を大木にメールした。
大木はホルツで仕事中の鷲羽に、この日に江川とベークウェルに行く
なんで俺が江川と行かなきゃいけないんだ。
鷲羽は心の中で愚痴をこぼした。
ベークウェルはお洒落な設計で、敷地が四十坪、店と工場は半分ずつに分かれており、
江川と鷲羽は別々に着いてその店の店長に挨拶した。
「店長の杉野です。来てくれて丁度良かったよ。明日から三日間、開店五周年の創業祭があるんだよ。
二人は同時に塚田を見た。
細身の塚田の制服はうす汚れていてヨレヨレしている。
塚田はぺこっと頭を下げて二人にバゲットの成形を促した。
「おい!ちゃんとやっとけよ!」
「塚田さんって幾つなんですか?」と気さくに江川が質問した。
「ニ十五です。元は本部にいたんです、、こちらに来て一年目になるんですがもう辞めようと思っていて」
「なんで?」
「それは、、」塚田はチラッと店長が出て行った跡を見た。
「あの人が嫌なの?」江川もそちらを見て言った。
「はい」
パワハラかなんかか?
鷲羽の険しい表情を見て、
「何が嫌なの?」
「ここにいても何も解決しない」
「例えば?」
「おい!江川。そんなやつほっといてさっさとやろうぜ。
「鷲羽君、
「ならなんで辞めるんだ」要領を得ない会話に鷲羽はイライラした。
「ここには問題が沢山あるんです」と突然後ろから声がした。
仕込みをしていた女性が話しかけて来たのだ。
「あ、急にごめんなさい。塚田さんもヘルプの人達に中途半端に言わないでよ」
「ごめん」
「ここは経営者は別にいるんです。
「注意すればいいだろ?」
「無駄ですよそんなの」
もう一人の焼成の担当三田も話しかけて来た。
「店長はすぐにキレるんです、
「えー!嫌だなあそんなの」
「だから辞めるのか」
「それもあります」
「
「ここって色々問題あるんだよ。例えばさ、それ、
鷲羽は窓拭き用の小さな四角いワイパーを持ってきて洗って搾り袋を持っている三田に渡した。
ワイパーの薄くなっている部分で搾り袋を押していくと袋の中のクリームが綺麗に使い切れた。
「
「ほんとだ!」
三人はしぼり袋の中のクリームが綺麗に使いきれているのを見て「へぇ〜」
「僕もちょっと良いですか?」江川も口を挟んだ
「
「作業する時にさ、同じ事を繰り返す瞬間があるんだよ。
「あとはこっちの仕事とこっちの仕事、
「
「あの、実は。。」「えっ?なに何?」三人が言う事を江川が乗り出して、鷲羽も仕方なく聞いていた。
「鷲羽君、僕たちも協力してあげましょうよ」
「嫌だよ。俺に関係ねえし」
「怖いんでしょう」
「そんな訳ないに決まってるだろう」
「じゃあお願いね」
「フン」
鷲羽は嫌な顔をしたが、江川の前で怖そうにもしていられない。
「協力しても良いけど条件があるぞ。俺をパンロンドで一日勉強させてくれよ。インターンシップってやつだよ」
「えっ」鷲羽がまさかパンロンドに来るなんて想像もしてなかった江川はどうなるか想像して足が震えた。みんなの鷲羽に対する印象はあまり良くない「お、親方に聞いておくね」
「よし!やる気でてきたぞ!」
鷲羽は勢いで乗り切る決意をして、店長が戻って来る前に時間を組み立て全員で力を合わせて仕事を片付けた。
店長が戻ってきて誰かと電話で話している。「始まりますよ」
そのうち納品業者が来て、店長と外に出て行った。
「よし」鷲羽は江川と二人で静かに外に出た。
「江川、行くぞ」
「うん」
二人がそーっと小さな窓を覗くと業者と店長が話している。
「見たぞ!ワイロ受け取るところ!」
店長が、ギクッとした。
「あんた横流ししてるだろ!」
「何言ってるんだ、納品書を受け取ったところだよ」
「嘘つけ」
「何が嘘だ」
「封筒の中を見せてみろ」
店長より背の高い鷲羽は上から封筒を取り上げた、
と、そこへ
「そこまでだ!」と社長と塚田が入って来た。
「あ!」店長が社長を見て叫んだ。
「在庫製品を倉庫から間引きして転売していただろう!俺はずっと塚田に頼んでお前の様子を見てもらってたのさ。
江川と鷲羽はそれを後ろで見ていた。
「鷲羽君あれ」
「うん」
塚田が急に顔つきと姿勢がが変わってしゃんとし出したのを。
「店長、あなたはこの職場に相応しくない、指揮が下がります」
「塚田!お前裏切ったな?」
「裏切ったのはお前だ!僕はずっと不正を暴くために詳細な在庫管理をしていたんだ、続きは社長と事務所でするんだな」
塚田が社長の代わりに強い口調で言ったので社長は転売業者に「
そんな顛末を見守ってから二人は階段を上がった。
「江川、片付けて帰ろうぜ」
「
いつのまにか二人は元々二人で一組の様な感じになっていた。
「鷲羽君ってさ、リーダーシップあるんじゃない?今日カッコ良かったよ」
江川は、そう言われて照れる鷲羽の顔を覗き込んだ。
「何言ってんだよ!」
「うふふ」
二人が話していると塚田が追いかけて来た。
「変な役をやってもらってごめんね、おかげで助かったよ。月一回業者が来て商品を横流しする日が今日だったんだ。高額な物を仕入れるから怪しいって思って調べていたんだ。それに、、江川君が色々聞くからつい言っちゃったんだ」
「えっそうなの?ごめんねなんか」
「おかげで勢いでスピード解決したよ。ありがとう」
「お前辞めるなんて嘘だったのか?
「僕、ここに残るって社長に言ってみるよ。今抜けたらみんな困るし。そうだ!
三人は口々に色々案を出しながら工場に戻って行った。
おわり