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パン職人の修造 江川と修造シリーズ スケアリーキング

投稿日 : 2022年1月24日 最終更新日時 : 2022年1月29日 投稿者 : グロワール カテゴリー : All, お知らせ, サイドストーリー, ツイッター小説, パン屋のお仕事, パン職人の修造, 江川と修造

 

パン職人の修造 江川と修造シリーズ

スケアリーキング

*このお話を読む前に

パン職人の修造は全てフィクションです。実在の人物や店舗、団体などとは関係ありません。「パンと愛の小説シリーズ」には素晴らしいパンの世界が毎回違った形で出てきます。読んでいるとひょっとしてパンに詳しくなれるかもしれません。今回はどんなパンが出てくるのでしょうか。

 

 

*スケアリーキング*

田所一家は、修造の妻律子の実家がある長野県長野市に来ていた。

律子の実家は東京駅から北陸新幹線はくたかに乗り長野駅で降りてから、レンタカーを借りて、車で一時間の山の上にある。

トマトやレタス、セロリなど育てている農家だ。

修造にとって義理の父 高梨厳(たかなしいわお)と義理の母 高梨容子(ようこ)は内心修造をよく思っていない。修造がドイツに行ってる間、しょっちゅうアパートに来て律子に離婚して実家に帰ってくる様に言っていた。なので修造も足が遠のいていたが今回律子の勧めもあって「嫁の実家にお泊り」なのだ。

律子の妹その子だけは優しい。

「修造兄さん、運転お疲れ様。お姉ちゃん、緑ちゃん、久しぶり」その子が明るく声をかけてくれるのでホッとして修造は車から降りた。「その子ちゃん、パン王座決定戦の時は野菜を持ってきて貰ってごめんね」

「良いのよ、役に立てたなら嬉しいわ。中へどうぞ」

「緑ちゃんや〜こっちおいで、さあさあお入り。ケーキを買ってあるんだよ」

厳と容子は修造を無視して緑を中に招き入れた。可愛い孫にぞっこんメロメロだ。

 

 

「あの」

「はあ?」

修造が挨拶しようとしたが、厳の目は三角になっている。

こわ

そこで容子に挨拶する事にした。

「ご無沙汰してすみません」

「ほんと、久しぶりだわね。長い事どこに行ってたのか知らないけど。ま、お入りなさいよ」

こわ

もう帰りたい。

しょんぼりしている修造の背中を律子が押して中に入れた。

「ごめんね、うちの親が」

「律子、違うんだよ。悪いのは俺なんだ」

「いつまでも言ってるうちの親に問題があるわよ」

「お父さんお母さん!修造は緑の大切なお父さんなのよ」

「わかってるわかってる」二人の返事はおざなりだ。

律子の生家は広い敷地の農地が見渡せる真ん中にある三階建てだ。

皆、一階にある和室の居間に移動して座った。

大きめの机が置いてあり、その周りに座布団が敷いてある。

修造は厳と対極の端っこに座った。

「はい、どうぞ」その子はお茶を入れてきて配った。

律子はみんなが座ったのをみて「あの」と切り出した。

「どうした、とうとう帰ってくる気になったのか?」

「まだ言ってるの?」

「ちょっと、なんなの会ったばかりなのに!」

その子はテレビをつけて場の空気を変える事にした。

「ほら、パン屋さんがテレビに出てるわよ。あ、この人NNテレビのパン王座決定戦で一緒に出てた人じゃない?」

お昼前の奥様向けの情報番組にブーランジェリータカユキのオーナー那須田シェフが出ている。

美しいクロワッサンや、目にも鮮やかなバイカラークロワッサンを紹介している。

バイカラークロワッサンは生地の表面に赤や緑の色付きの生地を重ね、巻くと色付きの生地とバターの層がくっきりと綺麗なパンの呼び方だ。

修造は急に顔つきが変わり、真剣に見だしたのを律子は見逃さなかった。

律子の解析はこうだ

那須田シェフだ!

この店はクロワッサンが有名なんだよ。

今度の一次審査にもヴィエノワズリーがあるんだ。

店の場所は上越妙高駅近くか。

ここから結構近いな。

行って色々教わりたいけど、今それを言うわけにはいかないな。。

律子は超能力者の様に全ての表情を見てとった。

「良いわよ修造」

「えっでも」

急に始まった二人の会話に驚いた厳が修造を睨んだ。

 

 

「何が良いんだ」

「いえ、なんでもありません」修造は小さくなってペコっと頭を下げた。

「修造は今から上越妙高駅に用があるんですって」

「長野駅に車を置いて行けば良いわ。私達はここでのんびりしてるわよ」

それを聞いて厳は急に気が変わった。

大嫌いな修造がいなくなるし緑を独り占めできるし。

「行ってきなさい。用が済んだらすぐ帰ってこいよ」

「はい!すみません」

修造は言うが早いか長野駅で借りたレンタカーのキーを握った。

「律子ごめんね」

ふふ。良いわよ修造。

どうせ行っちゃうんだから。

あなたはパンの事になるといてもたってもいられないのよ。

「気をつけてね、戻ったら話したい事があるの」

「うん」

律子は修造の背中を見送った。


 

修造は長野駅に着いてすぐ那須田の店に電話をした。

「今から行って良いですか?テレビに出たばかりでお忙しいでしょうからお手伝いします」

「ありがたいなあ修造君。じゃあ頼むよ」

話は早い。

テレビに出たその日から店が賑わうのを修造もパンロンドで経験済みだった。

長野駅から北陸新幹線はくたかに乗り、二十二分で上越妙高駅だ。

南側ロータリーのイベント広場にある上杉謙信の像を横目に修造は急いだ。

 

 

ブーランジェリータカユキは駅から近い立地で、広い敷地に郊外向けのレンガ作りの建物が建っている。すでにパンを求める人達の行列が出来ていた。

 

 

「修造君久しぶりだね」

「那須田シェフ、すみません急に。俺、テレビを見てていてもたってもいられなくて来ました」

那須田は笑いながらエプロンと帽子を修造に渡し、冷蔵庫を指差して「ここの生地の折り込みを頼むよ」と言った。

折り込みとはクロワッサンやデニッシュの生地でバターを挟んで、パイローラーで伸ばす作業の事だ。冷蔵庫で生地を冷やし、バターと同じ温度で折り込む。そして再び冷蔵庫で寝かせた生地を反物の様にパイローラーで伸ばして切って成形する。

「初めに少し見本を見せて貰えますか」

「そうだよね」

と言って那須田はキッチリと美しい折り込みをしてみせた。

チャンスは少ない、修造はじっと見ていた。

そのあとは折り込みをしながらずっと那須田の成形を見ていた。

よその店は勉強になる。

いつもとは全然違うみんなの動き。

全部覚えておかなきゃ。

「修造君、少し休憩しようか」

「はい」

 

 

那須田はコーヒーを入れて、出来立てのクロワッサンを持ってきた。

「味見しろよ」

さすが那須田のクロワッサンは巻きの美しさが秀いでている。

噛む前から良い香りに包まれ、パリパリと薄皮が剥がれて落ちた。

噛むとジュワッと口の中に小麦とバターの味が広がる。

美味いの極地だ.。

「ルヴァンですね」

「そう、うちのクロワッサンは材料にも拘ってるんだよ。塩とバターはフランス産。種はルヴァン。粉は国産なんだ。他は妥協できても商品への妥協は許されない」

「凄い」

修造は人でごった返す店の隙間から棚のパンを垣間見た。

補充しても補充しても無くなっていく。

「本当はうちにはクロワッサンを教わりにきたんだろ?なんでも聞いてくれよ」

「実はそうなんです。俺にあのクロワッサンの成形とカットを教えて下さい」

「君。選考会に出ようとしてるんだろ?」

「なんで知ってんですか?」

「なんでも耳に入ってくるのさ、この業界にいるとな」

那須田は自分のパンを見ながら言った。

「今日、夜中まで延々と仕事があるんだ。ちゃんとやってくれないと俺が教えたのに落ちちゃったらたらカッコ悪いからなあ」

「だから真剣にやってくれ!」

「はい!」

 

 

一方高梨家では。

「なに!今日帰らないだと!あいつめどこで何やってるんだ」

厳が激昂していた。

容子は「ちょっと!居間にいる緑に聞こえるからやめてよ」と小声でなだめた。

「大丈夫よ何も心配要らないわ。修造は今頃パンの成形をしてるのよ」律子も厳に言った。

「わかるもんか」

「いいえ、分かるわ。あの人の目を見たら」

私だけを愛してくれてるかどうか私にだけは分かるの。

「律子、、」

厳はシュンとした。

律子は俺の可愛い娘だったのにいつのまにかあいつが現れて散々苦労させた。なのに凄く心が結びついている。一体あんな男のどこが良いんだ。

「私、どこまでも修造と一緒に行くから」

「またどこかに行くのか?」

「ええ、そのうち修造と店を持つの。約束したもの」

「どこに?松本か?」

「修造の実家よ」

「あんな山奥に!」

厳は行った事ないがその子にグーグルアースを見せてもらって驚いた事を思い出した。

山以外何もない。

巌だって山の上で農家をしているが、この場合は集客が出来るのかと心配しているのだ。

「あんな所誰もくるわけないだろう?山のてっぺんじゃないか」

「来るわよ。色んな人が修造のパンを求めて来るの」

律子は自信満々で言った。

「あなた、律子はもう修造さんの奥さんなのよ」

律子が強い口調で言うので二人の対立が深まらない様に容子が火消しにかかった。

「二人で決めたんなら仕方ないじゃない」

「うーん」二体一になったので部が悪い。

厳はうめいてから緑のいる部屋に移動してしまった。

「緑ちゃん学校は楽しい?」

「うん!おじいちゃん、楽しいよ。聞いて、私空手が八級になったのよ。お父さんと行ってるの」

「へえ、凄いね。おじいちゃんにも見せてよ」

「良いわよ」緑は平安二段をしてみせた。

なかなか決まっている。

厳は拍手をして緑を褒めちぎった。

「お父さんはもっと上手いのよ」

「、、、」またあいつの話か

「お父さんとお母さんは仲良しなの?」

「うん、お父さんもお母さんも楽しそう」

「ふーん」

容子もああ言ってるし、ちょっとは認めてやるか。。

娘の幸せが大前提なんだ。。。

厳は少し気が変わってきた。

「今日はおじいちゃんとおばあちゃんと一緒に寝ようね」

「うん」

 

その頃ブーランジェリータカユキでは。

伸ばした生地に色の付いた生地を重ねてカッターでカットする所を見せて貰っていた。表面の部分だけをカットして巻くと、焼成後その編み目が鮮やかに出る。

 

 

修造は、那須田の手捌きを見つめながら「なんて精巧なんだ、神だなこの人」と思っていた。

「練習しかないよ修造君」

「俺、那須田さんと知り合いになれて良かったです」

「嬉しいなあ。なんでも聞いてよ」

「はい、もっと色々教えて下さいよ」

「はいはい、ひとつひとつ教えるから成形は任せたよ」

「はい」

いや~那須田シェフの手元をよく見られるし来て良かったなぁ!

律子ありがとう!本当に素晴らしい妻だよ。俺、感謝しかないよ。

修造はひとつひとつ丁寧に生地の表面に切り込みを入れていった。

そしてクロワッサン、バイカラークロワッサン、パンオショコラと朝方まで次々に仕上げていった。

きっと明日の朝もブーランジェリータカユキには行列ができて、開店と同時に沢山の人が入ってきてこのパンを買うかもしれない。

人の店に来て変な成形のパンを売らせるわけにはいかない。

修造はひとつひとつのクロワッサンを素早く丁寧に仕上げていった。

翌朝、沢山のお客さんで溢れ返る店内を見ながら修造は感無量だった。

成形したクロワッサンも次々にお客さんがトングでソーっとトレーに乗せてレジへと運ばれて行く。

「良いもんだなあ」

ところが

帰る時になって、修造は段々表情が暗くなってきた。

「修造君、どうしたんだ疲れたのか?帰りの新幹線では東京駅までゆっくり休んでくれよ」

「俺、実は長野にある嫁の実家から来てるんです。それで戻ったらなんて言い訳しようかと」

「そりゃあ気を使うね」

「はい」

「言い訳ってね、婿が意識高くスキルアップしてるのにそんな事する必要あるのかなあ。そうだ、誰が見てもわかりやすい説明あるだろ?使用前使用後じゃないけど、論より証拠って事だよ」と言って那須田はお土産のパンとは別に、二種類のクロワッサンをそれぞれ別の箱に入れて渡した。

「正直に本心を言えば良いんだよ」

 

一方高梨家では

「遅い!あいつは何をしてるんだ!?」

厳は昨日の夜一旦軟化したにも関わらず、修造が朝になっても帰らないのでまた腹が立ってきた。

「もう戻らなくて良い!あいつには俺からそう言っておく」

「何勝手な事言ってるの?そんなんだから普段から中々帰って来る気になれないのよ」

「うっ」それは困る。

「修造は私達が帰ろうと思った時に帰って来るわよ」

「なんでわかるんだそんな事」

そう言ってると玄関の向こう側からエンジンの音が聞こえた。

「修造だわ」

律子がすぐに玄関にむかったので厳も急いだ。

一喝してやろうと思ってたのに先を越される。

なので

「修造おかえり」と

「どこ行ってたんだこんな時間まで」

が同時に修造に発せられた。

「律子ただいま、すみませんお父さん。俺、見て欲しいものがあるんです」

修造は居間のテーブルにクロワッサンを置いた。

「これ、俺が昨日ブーランジェリータカユキに着いた時にやってたものです。そしてこっちが特訓後です」

特訓前は綺麗なクロワッサンだったが、特訓後はさらに美しくなっていた。

「あら、綺麗だわ」容子が感心して見ている。

「どう違うんだこれ、食ったら同じだろうが」

厳が違いがわからない様だったので、律子が生地とバターの間の間隔の美しさについて説明した。

 

 

「ほらここを見て、層が綺麗に出てるでしょ」と言われて厳は老眼鏡を持ってきてよーく見た。言われてみれば層が少し綺麗な気がする。

「ふーん、これの特訓に行ってたのか?」

「はい」

厳はおそらく凄いのであろうクロワッサンをジーッと見た。

「素材に関しても教えて頂きました。選考会頑張れよって言ってました」

修造はパンナイフでクロワッサンの頂点から下に向かってカットして断面を見せた。

理想通りの巻きだ。

修造の凛とした表情を見て、これが律子の言う「色んな人が修造のパンを求めて来る」理由なのか。

俺にはわからんがきっとこいつ凄い奴なんだな。

得心がいったのか、厳の表情は少し緩和された。

「お父さん、俺、父親の事を知らなくて育ったんです。母親もあまり家にいなくて。なので世間ずれしていて、お父さんにどう接していいのかわからなくて、、ドイツから戻ったのに挨拶が遅れてすみませんでした」

修造は頭を下げた。

そうだったのか、なんも喋らん無愛想な奴と思ってたが、孤独な育ち方をしたんだな。。

律子は厳の表情が急に変わったのをつぶさに見ていた。

「あのね、みんな聞いて。私、二人目が出来たの。緑はお姉ちゃんになるのよ」

「ほんと?律子」修造の目が輝いた。

「一番に言わなくてごめんね」

その時、修造と厳は目を見合わせて、お互いの喜びを確認してしていた。

 

 

 

おわり

—

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