パン職人の修造 江川と修造シリーズ スケアリーキング *このお話を読む前に パン職人の修造は全てフィクションです。実在の人物や店舗、
*スケアリーキング* 田所一家は、修造の妻律子の実家がある長野県長野市に来ていた。 律子の実家は東京駅から北陸新幹線はくたかに乗り長野駅で降りてから、レンタカーを借りて、車で一時間の山の上にある。 トマトやレタス、セロリなど育てている農家だ。 修造にとって義理の父 高梨厳(たかなしいわお)と義理の母 高梨容子(ようこ)は内心修造 律子の妹その子だけは優しい。 「修造兄さん、運転お疲れ様。お姉ちゃん、緑ちゃん、久しぶり」 「良いのよ、役に立てたなら嬉しいわ。中へどうぞ」 「緑ちゃんや〜こっちおいで、さあさあお入り。 厳と容子は修造を無視して緑を中に招き入れた。
「あの」 「はあ?」 修造が挨拶しようとしたが、厳の目は三角になっている。 こわ そこで容子に挨拶する事にした。 「ご無沙汰してすみません」 「ほんと、久しぶりだわね。 こわ もう帰りたい。 しょんぼりしている修造の背中を律子が押して中に入れた。 「ごめんね、うちの親が」 「律子、違うんだよ。悪いのは俺なんだ」 「いつまでも言ってるうちの親に問題があるわよ」 「お父さんお母さん!修造は緑の大切なお父さんなのよ」 「わかってるわかってる」二人の返事はおざなりだ。 律子の生家は広い敷地の農地が見渡せる真ん中にある三階建てだ。 皆、一階にある和室の居間に移動して座った。 大きめの机が置いてあり、その周りに座布団が敷いてある。 修造は厳と対極の端っこに座った。 「はい、どうぞ」その子はお茶を入れてきて配った。 律子はみんなが座ったのをみて「あの」と切り出した。 「どうした、とうとう帰ってくる気になったのか?」 「まだ言ってるの?」 「ちょっと、なんなの会ったばかりなのに!」 その子はテレビをつけて場の空気を変える事にした。 「ほら、パン屋さんがテレビに出てるわよ。あ、 お昼前の奥様向けの情報番組にブーランジェリータカユキのオーナ 美しいクロワッサンや、目にも鮮やかなバイカラークロワッサンを紹介している。 バイカラークロワッサンは生地の表面に赤や緑の色付きの生地を重ね、巻くと色付きの生地とバターの層がくっきりと綺麗なパンの呼び方だ。 修造は急に顔つきが変わり、真剣に見だしたのを律子は見逃さなかっ 律子の解析はこうだ 那須田シェフだ! この店はクロワッサンが有名なんだよ。 今度の一次審査にもヴィエノワズリーがあるんだ。 店の場所は上越妙高駅近くか。 ここから結構近いな。 行って色々教わりたいけど、今それを言うわけにはいかないな。。 律子は超能力者の様に全ての表情を見てとった。 「良いわよ修造」 「えっでも」 急に始まった二人の会話に驚いた厳が修造を睨んだ。
「何が良いんだ」 「いえ、なんでもありません」 「修造は今から上越妙高駅に用があるんですって」 「長野駅に車を置いて行けば良いわ。 それを聞いて厳は急に気が変わった。 大嫌いな修造がいなくなるし緑を独り占めできるし。 「行ってきなさい。用が済んだらすぐ帰ってこいよ」 「はい!すみません」 修造は言うが早いか長野駅で借りたレンタカーのキーを握った。 「律子ごめんね」 ふふ。良いわよ修造。 どうせ行っちゃうんだから。 あなたはパンの事になるといてもたってもいられないのよ。 「気をつけてね、戻ったら話したい事があるの」 「うん」 律子は修造の背中を見送った。
修造は長野駅に着いてすぐ那須田の店に電話をした。 「今から行って良いですか? 「ありがたいなあ修造君。じゃあ頼むよ」 話は早い。 テレビに出たその日から店が賑わうのを修造もパンロンドで経験済 長野駅から北陸新幹線はくたかに乗り、二十二分で上越妙高駅だ。 南側ロータリーのイベント広場にある上杉謙信の像を横目に修造は急いだ。
ブーランジェリータカユキは駅から近い立地で、広い敷地に郊外向けのレンガ作りの建物が建っている。すでにパンを求める人達の行列が出来ていた。
「修造君久しぶりだね」 「那須田シェフ、すみません急に。俺、 那須田は笑いながらエプロンと帽子を修造に渡し、 折り込みとはクロワッサンやデニッシュの生地でバターを挟んで、 「初めに少し見本を見せて貰えますか」 「そうだよね」 と言って那須田はキッチリと美しい折り込みをしてみせた。 チャンスは少ない、修造はじっと見ていた。 そのあとは折り込みをしながらずっと那須田の成形を見てい よその店は勉強になる。 いつもとは全然違うみんなの動き。 全部覚えておかなきゃ。 「修造君、少し休憩しようか」 「はい」
那須田はコーヒーを入れて、 「味見しろよ」 さすが那須田のクロワッサンは巻きの美しさが秀いでている。 噛む前から良い香りに包まれ、パリパリと薄皮が剥がれて落ちた。 噛むとジュワッと口の中に小麦とバターの味が広がる。 美味いの極地だ.。 「ルヴァンですね」 「そう、うちのクロワッサンは材料にも拘ってるんだよ。 「凄い」 修造は人でごった返す店の隙間から棚のパンを垣間見た。 補充しても補充しても無くなっていく。 「本当はうちにはクロワッサンを教わりにきたんだろ? 「実はそうなんです。 「君。選考会に出ようとしてるんだろ?」 「なんで知ってんですか?」 「なんでも耳に入ってくるのさ、この業界にいるとな」 那須田は自分のパンを見ながら言った。 「今日、夜中まで延々と仕事があるんだ。ちゃんとやってくれないと俺が教えたのに落ちちゃったらたらカッコ 「だから真剣にやってくれ!」 「はい!」
一方高梨家では。 「なに!今日帰らないだと! 厳が激昂していた。 容子は「ちょっと!居間にいる緑に聞こえるからやめてよ」 「大丈夫よ何も心配要らないわ。 「わかるもんか」 「いいえ、分かるわ。あの人の目を見たら」 私だけを愛してくれてるかどうか私にだけは分かるの。 「律子、、」 厳はシュンとした。 律子は俺の可愛い娘だったのにいつのまにかあいつが現れて散々苦 「私、どこまでも修造と一緒に行くから」 「またどこかに行くのか?」 「ええ、そのうち修造と店を持つの。約束したもの」 「どこに?松本か?」 「修造の実家よ」 「あんな山奥に!」 厳は行った事ないがその子にグーグルアースを見せてもらって驚 山以外何もない。 巌だって山の上で農家をしているが、この場合は集客が出来るのかと心配しているのだ。 「あんな所誰もくるわけないだろう?山のてっぺんじゃないか」 「来るわよ。色んな人が修造のパンを求めて来るの」 律子は自信満々で言った。 「あなた、律子はもう修造さんの奥さんなのよ」 律子が強い口調で言うので二人の対立が深まらない様に容子が火消しにか 「二人で決めたんなら仕方ないじゃない」 「うーん」 厳はうめいてから緑のいる部屋に移動してしまった。 「緑ちゃん学校は楽しい?」 「うん!おじいちゃん、楽しいよ。聞いて、 「へえ、凄いね。おじいちゃんにも見せてよ」 「良いわよ」 なかなか決まっている。 厳は拍手をして緑を褒めちぎった。 「お父さんはもっと上手いのよ」 「、、、」またあいつの話か 「お父さんとお母さんは仲良しなの?」 「うん、お父さんもお母さんも楽しそう」 「ふーん」 容子もああ言ってるし、ちょっとは認めてやるか。。 厳は少し気が変わってきた。 「今日はおじいちゃんとおばあちゃんと一緒に寝ようね」 「うん」
その頃ブーランジェリータカユキでは。
修造は、那須田の手捌きを見つめながら「なんて精巧なんだ、 「練習しかないよ修造君」 「俺、那須田さんと知り合いになれて良かったです」 「嬉しいなあ。なんでも聞いてよ」 「はい、もっと色々教えて下さいよ」 「はいはい、ひとつひとつ教えるから成形は任せたよ」 「はい」 いや~那須田シェフの手元をよく見られるし来て良かったなぁ! 律子ありがとう!本当に素晴らしい妻だよ。俺、感謝しかないよ。 修造はひとつひとつ丁寧に生地の表面に切り込みを入れていった。 そしてクロワッサン、バイカラークロワッサン、パンオショコラと朝方まで次々に仕上げていった。 きっと明日の朝もブーランジェリータカユキには行列ができて、 人の店に来て変な成形のパンを売らせるわけにはいかない。 修造はひとつひとつのクロワッサンを素早く丁寧に仕上げていった 翌朝、 成形したクロワッサンも次々にお客さんがトングでソーっとト 「良いもんだなあ」 ところが 帰る時になって、修造は段々表情が暗くなってきた。 「修造君、どうしたんだ疲れたのか? 「俺、実は長野にある嫁の実家から来てるんです。 「そりゃあ気を使うね」 「はい」 「言い訳ってね、 「正直に本心を言えば良いんだよ」
一方高梨家では 「遅い!あいつは何をしてるんだ!?」 厳は昨日の夜一旦軟化したにも関わらず、 「 「何勝手な事言ってるの? 「うっ」それは困る。 「修造は私達が帰ろうと思った時に帰って来るわよ」 「なんでわかるんだそんな事」 そう言ってると玄関の向こう側からエンジンの音が聞こえた。 「修造だわ」 律子がすぐに玄関にむかったので厳も急いだ。 なので 「修造おかえり」と 「どこ行ってたんだこんな時間まで」 が同時に修造に発せられた。 「律子ただいま、すみませんお父さん。俺、 修造は居間のテーブルにクロワッサンを置いた。 「これ、 特訓前は綺麗なクロワッサンだったが、 「あら、綺麗だわ」容子が感心して見ている。 「どう違うんだこれ、食ったら同じだろうが」 厳が違いがわからない様だったので、
「ほらここを見て、層が綺麗に出てるでしょ」 「ふーん、これの特訓に行ってたのか?」 「はい」 厳はおそらく凄いのであろうクロワッサンをジーッと見た。 「素材に関しても教えて頂きました。 修造はパンナイフでクロワッサンの頂点から下に向かってカットし 理想通りの巻きだ。 修造の凛とした表情を見て、これが律子の言う「 俺にはわからんがきっとこいつ凄い奴なんだな。 得心がいったのか、厳の表情は少し緩和された。 「お父さん、俺、父親の事を知らなくて育ったんです。 修造は頭を下げた。 そうだったのか、なんも喋らん無愛想な奴と思ってたが、 律子は厳の表情が急に変わったのをつぶさに見ていた。 「あのね、みんな聞いて。私、二人目が出来たの。緑はお姉ちゃんになるのよ」 「ほんと?律子」修造の目が輝いた。 「一番に言わなくてごめんね」 その時、修造と厳は目を見合わせて、
おわり —
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2022年01月24日(月)