2021年08月09日(月)

パン職人の修造 江川と修造シリーズ 進め!パン王座決定戦!前編

 

パン職人の修造 江川と修造シリーズ 進め!パン王座決定戦!前編

このお話は新人の杉本君  Baker’s fightの続きです。


下町の商店街にあるパン屋のパンロンドは今日もお客様が絶えない。お客さんがパンを買って帰ったらまた次のお客さんが来る。

大人気のとろとろクリームパンを成形しながらパンロンドの店主柚木(通称親方)は仕込み中の職人田所修造を見て思っていた。

修造が修業に行っていたドイツから帰ってから急にやる気に満ち溢れた職人が増えてパンロンドは爆上げになったな。

あいつは本当に大したもんだよ。

律子さんと緑ちゃんをおいてドイツに行くって言った時はどうなるかと思ったけど、帰ってきたら相変わらず律子さんと超仲良し夫婦だし。丸く収まるもんだなあ。

杉本は修造の舎弟みたいだし、江川は金魚の〇〇だな、、、

そこへ電話がかかってきた。親方は人一倍太い指で受話器をとった。

「はい、パンロンドです。」

「初めまして。わたくしNNテレビのディレクターの四角志蔵と申します。この度夕方の特番でパン王座決定戦というのをやるんです。」

「へぇ〜、、えっ?うちが出るんですか?」

「はい、最近人気の店を調べてパンロンドさんのお名前が上がってきましたので。」

「何をやるんですか?パンのクイズとか?」

「それもあります。勝ち進むと更にテーマがあるんですが、それは現場でのお知らせという事になります。」

親方は修造を見ながら言った。

「四角さん!うちに相応しい人材がいますよ。ぜひやらせて下さい。」

「本当ですか?全て録画になりますが、お茶の間の視聴者はみな釘付けになりますよ。各チーム2人ずつペアで参加なんですがどうですか?1回目の撮影は来週の火曜日です。」

「わかりました。」

「修造君〜!」電話を切って親方は修造に声をかけた。

親方がこう言ってくる時は大体頼み事が多い。

いやな予感しかしない修造は親方を見た。

「来週火曜日に修造と誰かもう1人がNNテレビのパン王座決定戦に出る事になったんだよね〜。」

「もう決めちゃったんですか?俺テレビとか苦手なんですが。」

人前で何かするとか嫌だな。特に目立つのは苦手だな。そう思ってると

「修造さんとですか?だとしたら誰かもう1人って僕しかいないですよね!」

修造と一緒と聞いて気が大きくなって修造の弟子っこの様な江川卓也が立候補してきた。

じゃあ頼むね〜」

親方はさらっとそう言ってまた仕事に戻ってしまった。

杉本は倉庫に材料を取りに行ってて出遅れて悔しがった。

「え~!江川さ~ん!変わってくださいよ~」

「いやだよ。僕が修造さんと一緒に出るんだもんね。」

そんなやりとりを聞きながら修造は凄く嫌そうにしていた。

うわ、俺どこかに逃げ出そうかな。

そう思いながら火曜日はすぐにやって来た。

修造と江川はNNテレビに向かう車の中で

「なんで俺がテレビに出なくちゃいけないんだ。」

「まだそんな事言ってるんですか?僕なんて何も知らないのに出るんですからよろしくお願いしますね。」

「お前、、信じられない図々しさだなあ!」

そんなやりとりをしながら2人はNNテレビに到着した。

「うわー!僕テレビ局初めてです。広いなあ。」

ADらしい人に控室に通されて「こちらに座ってしばらくお待ちください。」と言われた。

自分たちの他に5組いるんだ、、修造は腕を組んで椅子に座りながら凄い目力でジロジロ観察した。

1番右の2人。あれは北海道のパン屋北麦(ほくばく)パンの佐々木シェフだ。ここの自慢は自家製酵母を使ったハード系。

2番目が東北のブーランジェリータカユキの那須田シェフ。ここの自慢は見た目も美しいデニッシュとクロワッサン。

3番目は関東の俺たちパンロンド。

4番目は関西のブーランジェリーサクマの佐久間シェフ。ここは豊富な惣菜パンが有名な人気店だ。

5番目は中国地方のBBベーグルの田中シェフ。ここはベーグルの種類が豊富で、華やかなベーグルフルーツサンドが人気なんだ。

そして6番目は九州の酒種パンのロングハッピー藤原シェフ。

「それぞれ持ち味出してる店ばっかだな。」

うちが1番無名かなあと言ってるとディレクターがやって来た。

「どうもみなさんお待たせしました。ディレクターの四角と申します。今から皆さんでクイズの勝ち抜き戦で争って頂きます。

パンにまつわる問題が出ますのでどんどん答えて行ってください。6組中4組までが勝ち抜いて第2ステージに向かいます。

全10問しかありませんので頑張って下さい。お二人のうち、わかった方が答えて構いませんよ。」

説明のあとスタジオに案内された。1番やる気のない修造はだらだらと最後について行った。「さっさと負けて帰ってやる。」と小声で呟いた。

スタジオは広くてセットのところだけ凄くライトアップされていた

「セットの裏側ってベニヤ板なんですね〜」江川が嬉しそうにあちこち見ている。

スタジオのセットはクイズ番組でよく見る1番から6番のマークのあるブースに仕切られていて、2人は3番のマークのところに案内された。

「このボタンを押すんですね。早押しなんでしょ?」

「そうらしいな。」

ピンポン!江川は赤い丸いボタンを押す練習を始めた。なかなか素早い。

とそこへ、売れっ子司会の安藤良昌(あんどうよしまさ)が真ん中に立って挨拶して来た。「皆さん今日はよろしくお願いします〜。」そしてマイクをつけたり、セットを直して貰ってる。

「あれ、安藤良昌ですよね!芸能人見たの初めてだなあ!」

江川おまえの好奇心は天井知らずだな。

そう思ってると音楽がなり、とうとう番組が始まった。

皆緊張の面持ちで立っている。クイズが始まった。安藤が問題を読み上げた。

ジャジャン!

「第一問!パンを発酵させるパン種の中でも有名と言われるホップ種はイギリス、ルブァン種はフランス。ではライサワー種はどこの国?」

修造はすぐに押したが、既にブーランジェリータカユキの方が押していた。

「はい!2番の那須田チーム。」

「ドイツ!」

「正解です。一問目はブーランジェリータカユキの那須田シェフです。」

江川は修造の顔を見た。

あ!ドイツが答えなのに!

修造さんめっちゃ悔しそう!

 

これ外すか?って問題を答えられなかったので修造は意地になってきた。

「おい江川、ボタンの方に立って俺が背中を押したら反射的にボタンを押せよ。素早くな!」

「はい。」

ジャジャン!

「第二問!パンを膨らませるための原材料のペースト状や生地状の発酵種の中で、サワードゥは直訳するとどんな意味?」

ピンポン!最後まで聞き終わらないうちに修造が江川の背中を押して、江川が素早くボタンを押した。

「はい!3番の田所チーム!」

修造が江川にささやいた事を江川が言った。

「酸っぱい生地?」

「正解!パンロンド田所チームにポイント10点!残りはあと8問です!」

ジャジャン!

「第三問!粉の20%から40%程度に同量の水と酵母を混ぜ込んでつくる液種法は水種法と何?」

また素早く背中を突いて「ポーリッシュ法!」「はい正解!」

次々と答えていき、パンロンドは素早さだけで50点稼いだ。勿論他のパン屋もわかってはいるのにという感じだった。そこでディレクターの四角の指示で司会が「田所チーム!あと4問あるのでちょっとここでお休み下さい。他のチームの争いになります。もし那須田チームが50点稼いだ場合はもう一度参加して頂きます。」と言った。

修造がチェっとなったので、江川はそんな修造を見て、初めは嫌がってたのにこんなに熱くなって。。この人ギャンブラーじゃなくて良かったよ。と呆れた。

結果

1位はパンロンド

2位は20点稼いだブーランジェリータカユキ

そして3位は10点のブーランジェリーサクマと北麦パンだったのでもう一問を2チームで争う事になった。

ジャジャン!

「問題です。一般的なライ麦の発芽温度は次のうちどれ?1番1℃から2℃。2番5から6℃。3番7から8℃。」

タッチの差でブーランジェリーサクマが押した。

「はい佐久間チーム!」

「1番!」「はい正解!おめでとうございます。3位決定!これで4位は北麦パンに決定しました。」

音楽と共に番組は一旦締められた。

ディレクターの四角は控室で4軒のチームを集め「お疲れ様でした。次は4軒のパン屋で人気対決をしていただきます。各店舗のブースを設けます。機材はこちらで用意するので何を作るのか考えてください。材料費はウチがお支払いします。出す品は各店舗1品ずつ。」

四角は説明を続けた。

「お客さんの数は300人。皆さんに4店舗の名前が書いてある紙を持って頂いて美味しかった店を決めて、投票所にある各店舗の投票ボックスに投票していって頂きます。投票数の多かった2店舗が決勝進出です。」

 

 

「準備があると思いますので、1週間後、NNパーク広場で行います。それではよろしくお願いします。」

「うわ、人気対決ですって。どうするんですか修造さん。」

「絶対勝ってやる!帰ったら早速考えるぞ!」

他の店も同じ様に思ってたらしく早々に全員帰った。


親方は行きと帰りの修造のテンションの違いを見て驚いた。息巻いている。

「江川君、どうだった?今日のクイズ。」

「はい、うちの圧倒的勝利だったんです。次も絶対勝つって言ってます。」

「うへ~!それは凄いね。」


翌日、修造の頭の中は何を作るかでいっぱいだった。

対戦相手は那須田チームのデニッシュかクロワッサン、佐久間チームの惣菜パン、佐々木チームのハード系が自慢の店か、、もっとも食べたくなるパンってなんだろう。他所は何を持って来るのか?やっぱ知名度では勝てないか、、

ああいう屋台だと知名度と看板の写真なんかがものを言うよな。。

カレーやラーメンならなあ、、

そうだ!

カレーパン!

スパイシーで香り立つカレーはどうだろう?カレーがトロトロで皮がカリッとして。具沢山かそれとも肉の種類で特徴を出すか。

「あ、親方。修造さん何か思いついた様ですよ。」クリームパンの生地を綿棒で伸ばしながら修造を観察していた江川が報告した。

「親方、買い出しに行きたいんですが。」

勿論行ってきていいよ。頑張ってね。」

「はい!」

そう言って修造は駅前のスパイス専門店に走って行った。

そこには缶に入ったプロ仕様のスパイスが沢山並んでいる。

「えーと、ターメリック、クローブ、オールスパイス、コリアンダー、クミン、シナモン、カルダモン、チリペッパー、カイエンペッパー、ローリエなどなど、、」カゴに沢山スパイスを入れ、お店の人に「人気の出るカレーを作りたい。」と言うと「そうですねぇ。これなんてどうでしょう。」と、ししとう、パプリカ、セロリを指さした。

「沢山入れると気になる味ですが、旨みと香りが良くなりますよ。要は比率が大切なので色々試して見て下さい。スパイスをオイルでテンパリングして冷蔵庫で寝かすと丁度いい感じに馴染むんです。」

「はい。」

「それともう一つ。カレーができたら追いスパイスをするんです。ホールをすり潰すといい香りが立ちます。自分で好みの調合をして見て下さい。」

「どうもありがとう!」とお礼を言って買い物をして、スーパーでトマトと生姜とニンニク、を買った。

次に肉屋に行った。うーん、ここは牛のステーキ肉かそれとも豚の厚切り肉か、それとも牛スジか、、よし!これにする!

修造はある肉を買った。

パンロンドに戻った修造は、早速スパイスのテンパリングを始めた。サラダ油でホールスパイスをじっくり炒める。あたりはスパイスのいい香りで包まれた。次にそのオイルに生姜、ニンニク、玉ねぎ、を入れてじっくりと炒める。そこにトマトとセロリをミキサーでピューレにして鍋で他の具材と合わせる。その後こげない様に水分を飛ばし、追いスパイスを入れたら粗熱をとって冷蔵庫で寝かせて馴染ませる。

その後修造は肉屋で買った牛すじを取り出した。

まずは硬い牛スジを大きめの鍋に入れ、煮込んだ後雑味を除くために一度湯を捨ててもう一度鍋に入れて生姜と煮込んだ。

始め固かった牛スジは徐々に柔らかくなっていき、そのうちにトロトロプルプルと柔らかくなって来る。そこに酒と醤油、味醂を入れて味付けした。

衣をどうするかな。

カレーパンの美味いのはルーは勿論だが、皮のカリカリした感じも欲しい。あーんと衣を噛んでカリッとした後、トロトロのカレーを迎え入れ、口の中で両方の食感と旨みを味わいたい。

次の日、サクい食感の生地にスパイスを馴染ませたカレーペストを包み、真ん中に牛スジを包んた。

それを水溶きの小麦粉と米粉を配合したペーストに潜らせてローストしたパン粉をつけた。

パン粉は親方自慢の山食パン「山の輝き」をローストしたものだ。

カレーパンを揚げて「親方これ、食べてみて下さい。」と渡した。

「うわー!美味い!」

「このカレーを持って2回戦に挑みます!」

修造は2回戦の前の日、300人分のカレーと牛スジを用意した。カレーのルーを炊き、最後に追いスパイスをして馴染ませた。そして寸胴にカレーを入れて冷蔵庫に入れた。

江川はお店から持っていくもの一覧を見て真剣に用意した。「えーとカレーのタッパと生地用の容器と牛すじにボールにパン粉に餡ベラにと、、うちわも?」

「修造さん!明日は頑張りましょうね。」

「勿論だ!今日は早く寝ろよ!」


次の日はいい天気だった。NNテレビの広場には沢山の人がイベントの始まりを待って並んでいた。

4店舗のブースが並んでいる。それぞれ提供した写真と店名が各店舗の看板に大きく描かれている。今並んでる300人の人達は看板を見ながらどの店から行くか悩んでいた。

「修造さん、まさかでしたね。」

うーんまさか佐久間チームもカレーパンとはね。」

「向こうも驚いてますよきっと。」

1番ブースの田所チームは牛スジカレーパン。2番の那須田チームはクロワッサンサンド。3番佐々木チームは北海道産小麦の食パンにチーズとハムを挟んだクロックムッシュ、そして4番の佐久間チームは野菜たっぷりキーマカレーだった。

「うろたえてる暇はないぞ!そろそろ揚げる準備をしないと。」

と、そこへ「おはようございま~す!」とやって来たのはNNテレビが用意した販売員のお姉さん達だった。

あのーお姉さん達どうぞよろしくお願いします。」修造は珍しく爽やかに話しかけた。そしてお姉さん達にあるお願いをした。

江川には「さあ!どんどん揚げていこう!」と勢いよく言った。

すでに作業中のチーム達の前でロケが始まった。司会の安藤良昌が出てきた。「さあ!パン王座決定戦第2回戦の始まりです。来場者に店名の書かれた紙をお配りしています!美味しかった店に投票して頂き、投票用紙の多い店の中の1番と2番が決勝進出になります!私の合図と共に300人の観客が好きなパンを選びます。それでははじーめー!」

プアーーーン!

合図の音と共に人々はそれぞれ自分の食べたいブースに並んでパンを食べ始めた。

江川は他のブースを覗いて「うわ!佐久間チームの所にあんなに沢山の人が!先にカレーパン食べられちゃったらお腹いっぱいになっちゃうなあ。」と焦った。

佐久間チームのカレーパンはサラッとした口当たりで食べやすく、野菜の味がキーマカレーとの相性が良いと評判だった。

人々は皆メジャーな順に食べて行った。それはこの店なら安心という信用でもある。

マイナーなパンロンドは少々不利だ。

修造は手鍋にカレーを入れてコトコト炊いてうちわで仰ぎ出した。

「うわ!いい香り〜、ここに行こうよ。」と言って、並ぶ人数が少し増えてきた。

江川はカレーパンを揚げながら通路を通る人に声をかけた。「牛スジカレーパン揚げたてで美味しいですよ〜」

「ちょっと、あの子可愛くない?」と言って並ぶ人も増えてきた。

江川はトレーにカレーパンを乗せて呼び込みをし出した。

「こちらパンロンドでーす。」

「うちの牛すじカレーパンの方に投票して下さいね〜パンロンドの田所チームをお願いします〜。」

と、目をキラキラさせて言って回った。

修造はカレーパンを包んだり揚げたりしながら「俺にはできないなあ、あんな真似。」と感心していた。

江川は一人一人に丁寧に説明して、わざと列を作り、どんどん長くして行った。

待たされると美味しく感じるものかもしれない。

他の店はどんな感じなんだろうか?

司会の安藤が中央に出てきた。

「さて!ここで途中経過の発表です!」安藤は4店舗の集計表を見て「はい!1位は今のところブーランジェリーサクマです!2位が北麦パン!3位ブーランジェリータカユキ!そして僅差でパンロンドです!まだまだ4店舗回ってない方が多いので全部食べ終わってから投票して行って下さいね〜。」

うわ、僕たちのチーム4番目だって、頑張らなきゃ。

来場者は3店舗回って結構お腹一杯の人達ばかりになってきた。

江川はカレーパンを渡すとパンロンドの店名が書かれた紙ををお客さんの手に持たせて「これ、パンロンドの所に投票お願いします。」とニコッと笑って言った。

江川、そんなことしなくても俺のカレーパンは美味いんだ。

修造は焦らず最適の揚げ方に集中した。

 

後編に続く

 

 


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